3月12日、小鹿野町・両神・小沢口の甲源一刀流・逸見道場を見学した。伺った時にちょうど御当主のご母堂がいらして、道場と資料館を丁寧に案内して下さった。
道場は「耀武館(ようぶかん)」といい、築二百年を経ても保存状態は良く、埼玉県の文化財(史跡)に指定されている。江戸時代に建てられた武道場がそのままの形で残っているのはここだけだ。剣道をやっていた身としては憧れの場所でもある。
ご母堂に許可を頂いて中に入らせて頂く。「耀武館」の扁額を前に正座してじっと耳を澄ませると、はるか昔にここで汗を流して剣を鍛錬していた若者の息遣いが聞こえるようだった。身が引き締まる時間でもあった。
正面の柱、ちょうど人間の首の高さがえぐれている。突きを秘剣とする奥義があり、その鍛錬のためかと推測される。高い天井にどれだけの声が反響していたのか、想像するに余りある。欄間に長刀・槍・棒などの武具が掛けられている。上段の間には木刀を掛ける棚がある。すべて実際に稽古で使われたものだ。
江戸時代から延々と伝えられる剣の技。目で見ても多分奥義はわからない。しかし、この場所で鍛錬されていたことは間違いない。その空気を吸えただけでも心が引き締まる。
ご母堂は資料館も案内してくれた。別棟の資料館は二十畳くらいの広さで、ガラスケースには各種の古文書や写真、木刀などの現物が展示してあった。明治時代、靖国神社に奉納した額の下書きが大きく掲げられている。門弟3000人の名前が書き込まれた巨大な額だ。大八車に乗せて門弟が大勢で靖国神社まで運んだという。龍の彫り物も素晴らしいものだった。こうした奉納額は全国各地の神社に広く残っている。いかに多くの門人がいたかという事がわかる。
この家に輿入れした妻女の乗った女駕籠が展示されている。遠く群馬からの輿入れだったそうな。写真の妻女は婚礼衣装の胸に懐剣を差している。時代を感じさせる写真だった。
ほかにも珍しい品々がたくさんあって目を奪われた。これだけの歴史が、生まれた場所のすぐ隣にあったのかと思うと嘆息するしかなかった。
ご当主の父上が書いた本が二冊あった。「甲斐源氏・甲源一刀流逸見家」および「続編」の二冊を購入した。じっくり読んで、郷土の歴史を勉強したい。