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Channel: kurooの窓
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はざまに生きる、春

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5/30   はざまに生きる、春   (5)
 二日続けての映画鑑賞。この映画もまたシネ・リーブルで見た。宮沢氷魚が主演を務め、発達障がいを持つ画家の青年と女性編集者の恋の行方を描いた映画。発達障がいを持つ画家の屋内透(宮沢氷魚)は青い絵しか描かない。編集者の小向春(小西桜子)は同棲中ではあるが、担当した屋内透の嘘のない生き方に共感してゆく。発達障がいの人の考え方や行動は一定の法則があり、それは世間一般の人とは大きく違っている。その違いに振り回されながら小向春は自分の生き方や生活に疑問を持ち、屋内透に惹かれてゆく。ありがちな映画のストーリーだが、見終わった感想はそんな簡単なものではなかった。

 出版社で漫画編集者として働きながら自主映画を制作してきた葛里華が長編初監督・脚本を手がけた映画で、監督の個人的な経験が脚本になっているとのこと。雑誌社の仕事ぶりや制作ぶりがリアルで驚いた。発達障がいの表現もリアルで、現実に近いものだと思う。
 発達障がいの基準に該当しないが、その傾向にある人のことをグレーゾーンまたは「はざま」という。どれだけの人がはざまに生きているのかは誰にもわからない。この映画で宮沢氷魚が演じたのは発達障がいを自覚している画家だった。では、はざまに生きているのは誰なんだ?編集者の小向春か、その恋人か、はたまた雑誌社の同僚か、カメラマンか、映画を見ている自分たちか。誰でもこんな症状を呈することはあるのではないか。そんな問いかけもあるように感じた。
 青い絵しか描かない人。渓流釣りが好きで、素人とは行かないとはっきり言う人。約束は絶対に守る人。木の皮の匂いが好きな人。人の都合は全く考えない人。誰にでもはざまに生きる資格はある。障がい者を差別する感情はまだ社会に残っているが、正常な人との境目はどこなんだ。それは誰にもわからないのではないか。恋人と同棲していながら屋内透の家で夜を過ごし、何食わぬ顔をして家に帰る小向春もその一人だ。だからこそこのタイトルになったのだと思った瞬間、少し背筋が寒くなった。

 それにしても屋内透役の宮沢氷魚の圧倒的な透明感よ。宮沢氷魚のための映画だったように思う。発達障がいの画家といえば山下清が浮かぶが、この映画の主人公が芦屋雁之助だったら、こんなストーリーにはならなかっただろうと思う。やはり宮沢氷魚だったから恋も生まれたし、映画にもなったのだと思う。
 最後がハッピーエンドで終わってよかった。ハッピーエンドになることで、この映画の怖さから遠ざかることができた。それにしても宮沢氷魚の存在感はすごい。

 

 

 


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