瀬音ホームページの山里の記憶コーナーに「ススキ箒」をアップした。取材した片桐正富さんは以前からの知り合いで、物作りにすごい熱意を持っている人だった。その物作りに集中する元は何なのかを知りたくてお願いした取材だった。
テーマはススキ箒としたが、実はスカリ作りの方が興味深い技術だった。片桐さんに言わせると、秩父のスカリは消滅の危機に瀕しているとのこと。まず材料の入手が困難になったこと。鹿の食害で材料のイワスゲが採れなくなってしまった。鹿の食べ残しは二十センチくらいの長さで、この長さでは縄をなう事ができない。次に後継者がいない事。体験教室などで教えたくても材料がないから出来ない。第一に細い縄をなえる人がいない事。スカリ作りはまず細く強靭なスゲ縄を何百メートルも作ることから始まる。これがものすごく高いハードルになっている。
正富さんは考えた。スゲ縄を機械で作って供給できれば誰でもスカリ作りに挑戦できるのではないか。今、スゲ縄を作る機械を試作中だ。最近やっと5ミリの太さの縄を作る事ができた。これを研究して3ミリの太さで作れるようになればスカリの材料が出来る。材料は鹿に食われるイワスゲでなく、アマスゲというスゲがある。なぜか鹿はイワスゲは食べるが、アマスゲの食害は少ない。今はアマスゲの生息地を探して採集するのが課題だという。
出来上がったスカリバッグが何十個も保管されている。その出来栄えは本当に素晴らしいもので、これが全部一本の縄でできているとはとても思えない。正富さんは作り方も工夫している。昔ながらの作り方ではなく、編み物を作る機械を参考に独自の工夫をしている。「昔ながらの作り方をしている人からしてみれば邪道って言われるかもね・・」と笑うが、出来栄えは素晴らしい。誰でもこのスカリバッグが出来るとすれば、これは素晴らしいことだ。スカリ作りは文化財だと思う。これを伝承できるとすれば正富さんの挑戦も大きな成果を上げることになる。
スカリは昔からの作り方をしている人に敬意を評して、今回はスカリでなく別のものでという正富さんのお願いで今回のススキ箒の取材になった。ススキの茎穂がこんなに長いものだとは知らなかった。新鮮な気持ちで取材に入れたのが良かった。ススキの穂を絵に描くのが難しかったが、伝えたいことは描けたと思う。誰でも出来そうな気がするが、地元の素材で役に立つものを作るという正富さんの物作り精神は誰でも持てるものではない。