1月20日、三時間のテニスを終え、疲れた体を引きずって池袋に行った。向かう先はモアという歌謡スナック。10年間多くの人に愛されてきたこの店が閉店する日だった。ここに書くのは多分初めてだと思うが、じつは私、カラオケ大好き人間。この店に通うようになったのは3年前からで、知り合いに連れて行かれ、ドキドキしながらドアを入った記憶が懐かしい。
二時間3000円で歌い放題、飲み放題というシステムで、音響が素晴らしいスナックだった。客筋がとても良くて、年に何回か歌の会という催しも開催されていた。ここに通うようになって歌が上手くなった気がする。客は歌の上手い人が多かった。知らない歌を聴くことも多く、すごく勉強になった。月に二回だから常連という程ではなかったのだが、気の良い人達に迎えられ、常連の隅に坐らせて貰っていた。
昨年の8月に閉店の話を聞いてからあっという間の半年だった。こういう形で店が閉店するのは見た事も聞いた事も無かったので、最後は一部始終を見届けようと、開店の6時から店に入った。常連の客が次々に入って来てママと最後の挨拶を交わして、歌い、去って行く。愛されて惜しまれて店を閉店できるのはじつにありがたい事だとサバサバした顔でママが言う。カミさんも一緒に来ていた店だったので「最後まで見届けて…」と言われていた。
終電が終わってもまだ満席。歌は延々と歌い継がれている。みんな知っている顔ばかりだ。そこから一人減り一人減りして最後は4人残った。「みんなで5時まで歌いましょう」と歌い継ぐ。何を話すという事もなく歌が会話のように流れている。店で歌うことのなかったママも加わって歌の輪がつながっていく。何だか不思議な時間が流れていた。
5時、最後を私の「ありがとうの歌」で締めくくって店の営業が終わった。「じゃあ、また」というママの声に「じゃあ、また」と言って店を出た。まだ暗い池袋の町に出て、「じゃあ、また」と駅前で別れた。
6時から朝5時まで11時間歌い続けたことになる。みんなに愛されて幕を引くという最高の終わり方を見せてもらった。