ホームページの山里の記憶コーナーに「ねじ」をアップした。取材をした高橋 勇さん(六十七歳)は麺作りが趣味の人で、時に水にこだわる人だった。勇さんがこだわっているのは軟水で、秩父中を探して美味しい軟水を探している。秩父は武甲山や白石山など石灰岩の山が多く、これらの山から湧く水は硬水になる。秩父の名水と呼ばれる中にも硬水が多く、軟水の美味しい水はなかなか見つからないという。軟水でないと美味しい料理が作れないし、美味しいお茶も飲めないのだと勇さんは言う。美味しい軟水を探して料理に使うという執念がすごい。
今回の「ねじ」はなぜ「ねじ」と呼ばれるのか諸説あってわからない。わかっているのはお盆やお彼岸など先祖供養の場面で作られる料理ということだ。迎え火を焚いて仏壇に備える家もあれば、送り盆で食べる家もある。それぞれの家例によるので家ごとに違う。もちろん作らない家もある。
勇さんは7年前から「ねじ」を作るようになった。それまで母親が作っていたものを引き継いだのだという。「お袋がやってなけりゃあ俺だってやってないよ」と笑う。
麺作りが趣味なので「ねじ」も勇さんなりの工夫をしている。茹でる前に形を作ることだ。結んだもの、真ん中に切り目を入れて片側を通したものの2種類の「ねじ」を作る。結んだものの方が食べやすいという。ちょうど一口サイズになるからだ。
家の敷地には立派な稲荷神社がある。先祖から受け継いだものだ。歴史ある旧家の伝統と言ってしまえば簡単だが、毎年「ねじ」作り続けるにはそれなりの情熱が必要だ。
勇さんは麺作りという趣味の延長で「ねじ」を作っている。だから手を抜かないし、工夫もする。麺を茹でる水も軟水にこだわる。出来た「ねじ」を新盆の家に配ったり、集まった兄弟・親戚に提供したりする。昔を知っている人が喜んでくれるという。
取材は12日だった。迎え火を焚いて仏壇に「ねじ」を供えるのは明日だという。庭にはお盆様に飾るほおずきが赤く色づいていた。笹や竹で飾った盆棚にはナスの牛やキュウリの馬も飾られる。
夏のお盆は特別な時期だ。特別な時期の特別な料理「ねじ」。作るところを取材したが、実際には食べる場面が本当に意味ある場面なのかもしれない。お盆にしか食べられない「ねじ」が来年も再来年も作られて、同じ光景が続いて行くことが意味あることなのだろう。