11月14日、秩父の芦ヶ久保にわさび漬けの取材に行った。取材したのは赤岩正夫さん(77歳)だった。正夫さんは自宅下の斜面でワサビを栽培し、自分で刻んでわさび漬けを作って友人や知人に配っている。もちろん自分でも食べる。
本場静岡から苗を買ってきて植え付けて育てているのだが、本格的な畑ではないので育ちが遅いと嘆く。「まあ手をかけてないから仕方ないんだけどね」と自嘲する。
紅葉が輝くきれいな川でワサビを洗い、自宅で細かく刻む。大量なので刻むのを手伝った。ボウルに入れた刻みワサビに塩を振り、熱湯をかけて柔らかくして水気を絞る。
酒で溶いた酒粕に絞ったわさびを入れ、丁寧に混ぜる。これでわさび漬けの出来上がり。出来たてのわさび漬けはあまり辛くなく、パクパクと食べられた。これを冷蔵庫で二日置くと辛くなるという。
昭和40年から45年頃、芦ヶ久保や浦山でワサビ田を作ってワサビを栽培したという。国から補助も出て地方特産品として栽培を奨励されて、多くの人達がワサビを栽培した。
しかし、栽培者が高齢化したことと獣害がひどくなったことで、ワサビ栽培は減少の一途を辿った。特にイノシシの被害が大きく、高齢化した生産者はワサビ田の再開を断念せざるを得なかった。浦山でも芦ヶ久保でもワサビ栽培をしている人はごく僅かになってしまった。
今栽培している人も自家消費分がせいぜいで、特産品にすることはとても無理な状態だ。
そんな現状でも正夫さんはワサビ栽培を続けている。「うちは擁壁で守られるからイノシシやシカの被害が少ないんだぃね。そうでなきゃとても出来ないよ…」とのこと。横瀬川沿いの高い擁壁が獣を遠ざけているからこそ出来る事だという。
それでも貴重なわさび漬け作りの取材が出来たのが嬉しい。秩父では無理だと思っていたので、貴重な話が聞けた。
正夫さんは芦ヶ久保氷柱の開発に携わったり、茶業組合の組合長を10年以上続けていたりと地域の産業開発の中心人物だ。観光開発や特産品の開発に力を注ぎ、地域振興に力を注いでいる。「若い人にやってもらえればいいんだけどねぇ…」と謙遜するが、地域の人が頼りにしている。良い話がたくさん聞けた取材だった。