4/7 パリタクシー (5)
どうしても早く見たくて封切りの日にカミさんと見に行った。勘違いで、さいたま新都心のMOVIXでチケットを取ってしまったので、車で出かけた映画鑑賞だった。
パリにはいい思い出しかない。1997年に会社の社員旅行でパリに行った。二日間の自由行動で、カミさんとパリの街を歩き回った。オランジェリー美術館の地下、モネの絵の前で四時間を過ごし、オペラ座の前を通ってホテルに帰ったこと。朝からカフェと公園めぐりをして夕方までセーヌ川沿いを歩きまわったことなどなど、本当に思い出が詰まっている。
そして翌年98年はワールドカップに日本が初出場した場所だ。トゥールーズで、ナントで、パリで、我々日本人サポーターは温かい歓迎を受けた。そんな懐かしい思い出がパリには溢れている。そんなパリの街で展開されるロードムービー。見に行かないわけにはいかなかった。そして本当に観に行って良かった。
92歳のマダムが養老院に入所するために呼んだタクシーの運転手とパリの街を走り抜けながら自分の過去をめぐる物語。最初は仏頂面だった運転手が徐々に彼女の話にのめり込み、いつしか自分の過去を省みるというストーリー。彼女の壮絶な人生とそれにまつわる思い出の場所の数々。運転手は彼女の話を聞きながら自分の来し方行く末を重ねて行く。
途中、急にトイレを探すシーンがあったり、警察に捕まったり、セーヌ河畔でタバコを吸ったり、ジェラートを食べたり、最後はディナーをしたりと豊かな時間が流れる。養老院から催促の電話があり、渋々送り届け、玄関の別れは本当に寂しそうだった。そこからラストまでの展開は息をつかせないものだった。運転手に託された110万ユーロの小切手は感謝のタクシー代だったのだろう。マダムが「お釣りはいらないわ」と微笑んでいるようだった。観終わって涙が止まらなかった。
1950年代のパリは女性が夫の許可なしに何もできない時代だったことなどもこの映画で初めて知った。そして、タクシーの背後に流れるパリの街並みが実に美しい。懐かしいオペラ座も映ったし、セーヌの河畔も映った。凱旋門も映ったし、大聖堂も映った。パリ好きにはたまらないロードムービーだった。
それにしても、最近なぜか終活の映画が続いている。「オットーという男」「ロストケア」「生きる LIVING」そして今回の「パリタクシー」。自分がそういう年齢になっているという事なのだろうが、考えさせられる事が多い。体が動く元気なうちにやっておかなければならない事が多いなあとしみじみ思う。