3/7 エンパイア・オブ・ライト (4)
1980年代のイギリス。海辺の町にある古い映画館エンパイアが舞台の映画。主演はオスカー女優のオリビア・コールマンと若い黒人男性のマイケル・ウォード。この二人が心に闇を抱えながら出会い、刹那的な恋愛物語を展開する。冒頭の劇場に通勤した主人公が次々と館内に明かりをつける場面が良かった。劇場形式の素晴らしい映画館が出来上がってゆく映像は秀逸だった。
主人公の心の闇は劇場支配人の性欲のはけ口になっていること。前半のセックスシーンなどは目を覆いたくなるような暗い画面が続く。子供ほどの新人黒人男性に魅了されてゆき、そこでもまた中年女性のセックスシーンが出てくる。この映画は日本ではあまり支持されないだろうなと思いながら見ていた。イギリス映画は良い意味でも悪い意味でもリアルだ。主人公の感情を爆発させる圧倒的な迫力がすごい。
マーガレット・サッチャーの時代で不況がひどくなり、強権政治は右翼の台頭を促す。外国人排斥や黒人差別を縦糸にするとすれば、エンパイア劇場の従業員の優しさや黒人男性の母親や友人が横糸になって物語が織り上げられてゆく。大きな闇を抱え、親子ほど年の違う、人種も違う二人が惹かれあい愛し合うようになってゆく過程が丁寧に描かれる。支配人の妻に過去の仕打ちをぶつける主人公。右翼の暴徒に襲われて瀕死の重傷を負う青年。支え合う二人の感情が切ない。
最後は別れが待っている。青年は大学に進学し街を離れる。主人公は映画館の仲間に守られながら映画の素晴らしさを再確認する。エンデイングの風景が良かった。車窓の風景と重なる詩の文章が良かった。
最後は映画と映画館が好きな仲間に囲まれてほのぼのしたエンディングで良かった。映写技師が「ニューシネマパラダイス」みたいで良かった。
しかし、イギリスの奥深さを感じたのは別のシーンだった。青年の母親が自分より年上の主人公に対して「あの子はあなたを愛してるの」と手を差し向ける場面。そして、セックススキャンダルを起こし、警察沙汰を起こし、劇場を混乱させた主人公を普通に迎え入れてくれる仲間の存在。日本だとこういうシナリオは書けないだろうなと思った。映画館を出て時間が経つにつれてジワジワと良さが分かってくるという難しい映画だった。