ホームページの秩父山里の記憶コーナーに「甘酒まつり」をアップした。盆棚の取材をした山中正彦さんに「素朴なお祭りがあるんだけど…」と紹介されたのがこの甘酒祭りだった。甘酒を作るところから翌日のお祭りの様子を取材させて頂き、新鮮な感慨を受けた。山あい四軒だけ維持する薬師様の縁日。寺尾根の薬師様は火災に遭ったものを再建したもので、ご本尊は焼けた仏像二体と新しい木彫りの仏像二体が安置されている。
前述の山中正彦さんの著書「小森森林軌道」に薬師様やお祭りのことが詳細に書かれている。その昔の物流がどうだったのか、道が出来た歴史などが克明に書かれている。地域の歴史を克明に記録した貴重な本だ。
甘酒祭りを取材した黒沢マサ子さんが「もう何十年もやってるからねぇ…」とつぶやいた言葉が頭に残っている。四軒だけになっても続けていける熱のもとは何なのだろうか。山中正彦さんが「地域にとってこういう集まりが大切なんで続けなきゃって思うんですよ」と言っていた。この言葉が力強かった。人のつながりが小さなお祭りを守っている気がした。
本当に素朴なお祭りだった。尾根の薬師堂に籠もって甘酒を飲み、持参した料理の数々を食べながら四方山話をする。話し声と野鳥の鳴き声と沢の水音しか聞こえない。ときおり尾根を渡る風が緑の葉をそよがせるだけの静かな世界。
甘酒を飲み、頂いた料理を食べ、ボーっと山を眺めていた。何も考えないこんな時間を持ったのは久し振りだった事に気が付く。四軒だけの縁日に飛び込んだ来訪者のやることはなく、ただその場の空気に浸るだけだった。