ホームページの秩父・山里の記憶コーナーに「ぶどう栽培」をアップした。取材した守屋ぶどう園は昭和47年からぶどう栽培を始めた。今まで直売場などに出荷せず、販売と予約注文だけで完売すると聞いて驚いた。長年の信用と確かな味がなければ出来ない事だ。昨今の消費者は新しいものに引かれるし「うちは古い品種が多いから」という幸彦さんの言葉が信じられないようだった。
ぶどう栽培はものすごく手間がかかる。それも人間の手作業でやらなければならない事が多いし、細かい作業も多い。40年間続ける事の大変さはよくわかるつもりでいたが、一緒にぶどう園を歩いてみてその事を痛感した。顔の高さにあるぶどう棚が微妙に腰にくるのだ。この態勢で一日作業するのは本当にきついと思う。ましてや幸彦さんは173センチの長身だ。それでもこの歳まで続けられたのは「好きだからやって来られたんだと思うよ」という言葉に言い尽くされている。
今年は花の時期が早くておかしかったが、猛暑のせいで小さめの粒でもとても甘く出来上がった。高温障害が少し出ている以外は順調な出来上がりだという。
奥さんが忙しく収穫作業をしていた。今日発送するものを収穫している。注文発送は全部で400個を超えるそうだ。房の状態を確認しながら収穫し、糖度を測って箱に詰め込む。10月中旬までその作業が続く。取材中にもぶどうを買いに来た人がいた。リピーターだけで完売するぶどう園というのも多くはないだろう。
年間作業の事を聞いたが、とても詳細には書ききれない。知らない人間が聞いて書いている事だから、多分間違いや足りない部分もあると思うが、作業の多さに目がくらむ思いがした。これだけの作業をこなしながら、毎年ぶどうを作り続ける。幸彦さんの淡々とした口調にその誠実な人柄と仕事の確かさを見た。ことさら強調する訳でもないその語りの奥に、今までやって来た事への自信と自負を感じた。
それが「好きだからやってこられた…」という表面上の言葉に集約されているのかもしれない。実績に裏打ちされた言葉には強いメッセージがある。